8月21 (月) 大雨/停電
 大雨の中,デトロイト空港のMarriottホテルをチェックアウト(といってもビデオチェックアウト:テレビをつけてチェックアウトというところにカーソルを移動してボタンを押すだけ),アナーバーに車で向かう.日中は差分法の文献を調べる.夕方用事があって,近所のスーパーに買い物に行ったら,たまたま交差点の信号がなんらかのトラブルで停電していた.4車線の道が交差する大きいところだがおまわりさんもいないのに皆,整然と申し合わせたように各方面からの車が2台ずつ交差点に進入する交互交通を行っているのには感心した.この国はトラブルが起きたときには他民族国家でありながら日本よりも強いかも知れないな,そんな考えが頭をよぎる.
 夜,Microtel Inn にチェックイン.なんだかんだとそれなりに利用してたプリペイド携帯の残り金額が10ドルとなった(残額はメッセージで知らせてくれる).帰国前にもう一度,電話料金をチャージするか考える(なお、プリペイド携帯電話は3か月ほど未使用だと使えなくなる。参考まで)。
8月22日 (火) 曇り
 朝、ホテルより歩く。久しぶりの運動。昼、菊池先生とダウンタウンにハンバーガーを食べに行く。今日の話題は人と人との間(ま)。家族、上司と部下、友達、男と女、全ての関係に適正な間があるという。間をきちんと取れない人を「間抜け」と呼ぶ。武士の頃より間を重んじる日本人の精神。。
8月23日 (水) 雷雨のち晴れ
 朝、ホテルより歩くと猛烈な雷雨にあった。リュックからすばやく雨具をとりだし装備するが、それでもかなり濡れてしまった。レインスーツを着終わっても雷がひどく怖くて歩きだせない。雷雨が小康状態になるのを待ってようやく歩きはじめる。よくよく見ると夏の間にきれいな花をさかせていた木もいつの間にか実をつけている。どこにでも見かけたグースの親子もふと気がつくとどこにもいない。いつのまにか秋は忍び寄っていたんだな、とさびしい気持ちになる。
8月23日 (木) 曇り
 South Univ通りの韓国料理店はかなりみすぼらしいたたずまいである。ひょっとするとアナーバーでも1,2を争う野暮ったさである。しかし、味は素晴らしい。お値段も安く、菊池先生のお気に入りの店である。ここで菊池先生と昼食をとりながら話し込んだ。IACMのこと,Bathe, Hughs, Belythcko先生達のこと,日本の先生達のこと.あまりにいろいろな組織に所属している人はしまいに人がついていかなくなる,人が育たなくなるという話.いま書いている本の話.
 夕方さらにお茶を飲みながら話し込む.最後に「これ読みなさい」と大数学者Courantの1926年の論文をもらう.目を通すが、自分の数学的な素養のなさでフムフムとは簡単に読めない。。涙。。
8月24 (金) 晴れ
 午後,日本経由でヨーロッパに行く菊池先生をデトロイト空港まで送る.車の中で話したのはトヨタ自動車の創業からの大学とのかかわりなどトヨタ自動車のこと.
 夕方,たまにはアメリカの食事をと,近所の Big Boyというチェーン店レストランにハンバーガーを食べに行く.品のいいおばあちゃん達が優しくテーブルに案内して世話してくれる.スープとサラダの食べ放題と小さめのハンバーガーを頼む.スープはどれもちょっと塩辛いし,サラダのドレッシングもちょっと甘めの味付け,でもこれこそアメリカという味だ.出てきたハンバーガーは,(小さいのを頼んだのにそれでも)でかい!てんこ盛りのフライドポテトもついている.すばらしいアメリカを堪能したが,ハンバーガーは食べきれず半分は持ち帰りとした.これはまともに食べたら太るよ...なお,お持ち帰りのバッグは英語でdoggy bagだ.そういえばアメリカに来て最初に耳にする奇妙な英語は"For here or to go?"と"Paper or plastic?"である.この意味をご存じだろうか?
8月25日(土) 曇り時々雷雨
 部屋で仕事.Simon & Garfunkelの「America」を聞く.この歌には,ミシガン,サギナウ,ピッツバーグ,ターンパイク(有料高速道路)と今回の出張にかかわるような歌詞がたくさん出てきて歌の情景がよくわかる.どこか大都会に出れば幸せがあると思って旅に出た若者がそれを発見できずに戸惑っている歌だな.ピッツバーグ、ニューヨークと、いくら大きな都会に移動しても”アメリカ”(「大成功の人生」を意味していると勝手に解釈)が見つけられない...そりゃそうだよな。がんがん自己主張する人の多いアメリカにも寂しがりやがいるんだなと変なところに感心する.ついでに「明日にかける橋」は途中でがらりと雰囲気が変わるので,またこちらも印象深い.1,2番はどこかの優男が傷ついている友達を優しく慰めているような状況.そこにそれなりに成功した別な友達が現れて「そんな言い方じゃ人は立ち直らないよ.」と3番を歌う..「明日にかける橋をどうかけるかもめている歌」に聞こえるのである.
8月26日(日) 日本晴れ
 朝15℃くらいで涼しい.午後3時で24℃.とても空気が澄んでいてあっぱれ日本晴れである.アメリカ最後の夜は,ビールにステーキと考えたが,仕事をしているうちに夜の10時になってしまい,あわてて帰国のための荷造りをする.出国の時にスーツケースの重さが制限(23キロ)ぎりぎりだと警告されたため,おみやげなど無し(ごめんなさい).資料はスキャンしてコンピュータの中..やはり慣れたアナーバーとはいいながら,それでも久しぶりだったので仕事の立ち上がりはちょっと手間取ったかな.しかし,次につながるくさびはしっかりと打ち込めたと思う.
8月27日(月) 日本晴れ
朝10時にチェックアウト。10時40分には空港に着いた。高速道路を下りて道路標識に沿って、レンタカーを返却する道へターンする。通りの両側にずらりとレンタカー会社が並んでいて、どこの会社も500台くらい車を並べている。Avisを見つけ、「リターンはこっち」の標識にしたがって車を止めると、返却担当の職員がさっと寄ってきて、走行距離とガソリンの量を調べ、手持ちのポータブルコンピュータに入力して、あっという間に返却終了。一か月丸々借りて税込720ドルだ。走行距離は驚くなかれ2500マイル(こんなに走っていたとは。。)。心配していたボディの小さなへっこみもノークレーム。あまりのあっさりさ加減になんか拍子抜けする。荷物を車から降ろすとすぐに、「航空会社は?」と聞かれ「North Westの国際線」と答えると、「あのバスが連れて行くから」と言われ、そのバスに乗り込んだ。とにかくレンタカー会社は手続きの簡素さが重要らしい。ほどなくチケットカウンターでチケットを手にいれ、手荷物検査もデトロイトではなぜかあっさりパス。2時間後には機上の人となった。
 12時間の空の旅はとにかく窓よりの席で動けず(いつもながら)きつかった。パソコンで仕事をしながら時々ポータブルのGPSを覗き込む。新しいGPSの性能は素晴らしく、デトロイトからミシガン半島、スペリオール湖上空を経て、カナダ、アラスカ、ベーリング海と飛行機の経路を正確にディスプレイ上に表示する。飛行時間の半分を過ぎたころにカムチャッカ半島上空に達した飛行機は、さらにオホーツク海を南下し、サハリン上空を飛び、稚内から千歳空港上空を通過した。苫小牧の港に空から別れを告げるといよいよ本州上空である。日本の沿岸線は特徴があるから、一瞬でも見えればどこかわかるはずだが、残念ながら雲が多くて下は見えなかった。午後4時ころ、無事成田空港に到着。曇り、気温30度。成田エクスプレスの車窓から日本の箱庭のような景色を見ながら、明日から社会の歯車のひとつとしてしっかり働かなくてはという思いを新たにするのであった。
あとがき
 NTTに壊れた携帯を持ち込んだところ、この機種は海外でのハングアップが報告され、対応チップが出ているとのこと。チップを交換してもらったらすぐに直ったが、この韓国LG製の携帯電話 ”Simpul L”を今回の旅行で使えなかった物の第一に挙げておく。
 逆に想像以上に活躍したのが、モンベルのトレッキング用スニーカー、ラップランドストライダーである。すごく軽く、防水透湿性、クッション性にすぐれ、アメリカの濡れた芝、突然の雷雨、かんかん照りのアスファルトの上など想定してなかった状況の中でリュックを背負って快適に歩きまわることができた。もンベルは靴メーカーではないので全く期待していなかったが、素晴らしい履き心地に恐れ入ってしまった。私のように体重の重い人間には靴は重要なのである。