研究室紹介

「計算力学」

 計算力学はコンピュータを用いて力学のシミュレーションを行うという学問分野です.力学の研究の歴史は大変古いものですが,20世紀後半のコンピュータの登場と発達は,「計算力学」という新しい力学のアプローチを生み出しました.コンピュータの発達以前はごく限られた問題しか解けなかった力学の解析が,きわめて実際的なエンジニアリングの問題を含む広範囲の問題まで適用されることが可能になりました.その結果現在では,「計算力学」は設計の重要なツールとして多くの企業で活用されています.

 にもかかわらず,国内に「計算力学研究室」を名乗る研究室はそれほど多くありません.これは力学の種類(たとえば流体とか固体とか)が実は多種多様で,それぞれの分野で計算力学が発達しているため,特定の研究室が「計算力学研究室」というネーミングを用いることを遠慮してきたためです.

 しかし,成蹊大学工学部では先生方の理解と協力のもと,1990年にこの「計算力学研究室」という名前の研究室が立ち上げられました.以来,本研究室ではその名に恥じぬよう構造,流体,音響,振動などいろいろな力学を対象に,翼を手にいれたイカロスのように自由に幅広い分野で活動しています.

会社方針

研究内容のご紹介と四方山話

 計算力学は英語でComputational Mechanicsといいますが, CAE(Computer Aided Engineering),日本語でコンピュータ援用工学と呼ばれることもあります.この言葉が使われるようになった約20年前は,「コンピュータ援用工学」といっても実際にコンピュータが活用されていたのはもっぱら「計算力学」に限られていたのです.工学の殆どすべての分野でコンピュータが利用されるようになった現在ではかなり違和感を覚える用語となりました.このエピソードからも窺えるように計算力学とそれを取り巻く環境は目まぐるしく変化し,発展しています.なにしろ,コンピュータに関して言えば,1976年に発売された世界最初の商用のスーパコンピュータCRAY-1に比べ現在の典型的な家庭用パソコンは処理速度でおよそ10倍も速くなっているのです.

社長

CLAY-1は演算装置とメモリを最短距離で結ぶため円筒形という奇抜な形をしていました.しかし,もっと人々を驚かせたのは表面にレザーが貼られ椅子として使用できるようになっていたことです.クレイ博士のユーモアに皆さんはついていけますか?筆者(弓削)は,学生の頃にアルバイト先でこのマシンを見た覚えがあります.高価なマシンなので1秒の計算時間で1000円以上課金していたと思います.
1999年には,あるプロジェクトに関連して米国クライスラー本社で最新のCLAYで計算する機会がありました.いくら使っても課金されないシステムで,スーパーコンピュータをぐっと身近に感じだのですが,もっと驚いたことがありました.ある日のこと,スーパーコンピュータを操作していた画面に「メンテナンスのために停止します」というメッセージが出たのです.その日の作業は終わりか,と思ったところ,担当者は平然と「違うCLAYを使え」と言いました.クライスラー社には10台ほどのCLAYfがあったのです.いやはや,その恵まれたコンピュータ環境にはため息が出てしまうと同時にアメリカの自動車産業がCAEに力を入れていることを痛切に感じました.

 最近では単に複雑な力学現象のシミュレーションを行うだけではなく,シミュレーション結果から,どのように設計変更をすれば最適な設計となるのかを計算することが求められています.このような研究分野を最適設計といいます.計算力学研究室ではこの最適設計にも積極的に取り組んでいます.最適設計計算からは,我々が創造も出来ないような奇抜なデザインが出てきたり,日ごろ慣れ親しんだデザインが出てきたりしてきて興味がつきません.